広島大学文学部所蔵史料の調査

広島大学文学部所蔵の史料については、既に昭和二十九年・四十一年の二度にわたり採訪が行われ、特に四十一年の採訪では、同大の購入された猪熊信男氏旧蔵文書の全点の撮影が行われ、分類・架蔵に至っている。今回は昭和五十四年九月三十日より十月六日の間、前回の調査・撮影に洩れた近世公家・諸侯書状等に加えて、猪熊信男氏旧蔵文書に含まれる大乗院記録の紙背文書について、その調査撮影を実施した。
一 大乗院記録紙背文書
 猪熊信男氏旧蔵の大乗院記録は、昭和四十一年の採訪で、表のみの撮影は終了し、現架蔵されている(6115—13—1〜8)。大乗院記録全四十二点については、紙背文書を有するもの二十六点を数え、しかも内十七点が大乗院尋尊筆にかかり、その紙背文書は彼が大乗院々主、興福寺別当として活躍した時期のものとして、大乗院寺社雑事記を補う史料と言えよう。特に文書が相対的に少ない興福寺史料群にとって紙背文書は新たな素材を提供するものである。
 本史料群に含まれる紙背文書は、当然ながら無年号文書が多く、成立の上・下限は概ね明らかとはなるものの、その個々について更なる検討を要するため、本報告では法量と注目すべき点若干の提示に止める。
一、自寶徳三年 至明應四年 大乗院到来引付 尋尊筆      一冊(大乗院1)
   全百六十四紙中紙背百十五紙(竪紙四十二通、本礼紙十四通、折紙三十八通、竪折紙二通、懸紙十四紙、草二紙)
   右の内年号の明確なるは、

『東京大学史料編纂所報』第15号